複合機の小さな願い

変革の目標とか、業務の方法を示して「変われ」と組織に迫るのでなく、変革に使用できる道具や手段など、変革を可能にする要素(イネーブラー)を示し、これを利用して自律的に業務の連携を改革するよう現場で働く人々を促す。 T、H、Dはイネーブラーとして(1)情報技術、(2)情報、(3)人的、組織的イネーブラーの3種があることを示し、その作用や重要性について論じている。
情報技術があっても、質の良い情報がなければ役に立たない。 情報があっても、活用できる人材がいなければ意味がない。
したがって、T、H、Dのリエンジニアリングは顧客指向であるとともに、人間中心のビジネス改革である。 統合業務パッケージは「情報技術イネーブラー」である。
しかし、先ほどの事例のとおり、「情報」は提供してくれない。 まして、「人的、組織的イネーブラー」は関係がない。
悪いことに、「パッケージに合わせて業務を改革する」と、ビジネスプロセスは顧客指向から外れたところで固定化されてしまう。 これはビジネスプロセスを変えるだけで、仕事が良くなることを保証できないBPRの方法の一部分である。
「ベンチ・マーキング(他社との比較)」や「ベスト・プラクティス(業種にこだわらず、世界一優れている業務方法を参考にする)」に似ているが、本末転倒している。 パッケージ導入は業務を変えることにつながるが、それはりエンジニアリングではない。

BPRを十分に理解していない導入業者に任せると、リエンジニアリングの本道から外れる恐れがある。 T、H、Dの本の翻訳にかかわった私達には、BPRとパッケージ導入が混同されることは迷惑である。
2000年問題に対応できないパッケージがある。 パッケージ売込みのもう一つの根拠は、ソフトウェアの2000年問題である。
従来コンピュータ内での日付の表現をyymmddとしてきたyyは西暦の下2桁、mmは月、ddは日である。 ところが2000年になると、yy=00となる基本ソフトウェアの中には00になると動かなくなるものがある。
また、アプリケーションの中でも問題が起きる例えば納期優先の論理を採用していると、1999年納期の注文より、2000年納期の注文のほうが優先される。 基本ソフトウェアに関してはベンダーが責任を持って数年前から対応していることが多い。
ユーザが2000年問題対応バージョンを導入しさえすれば、一応解決する。 ユーザ固有の業務用ソフトウェア(アプリケーション)に関しては問題が複雑である。
アプリケーション・プログラムの「データ定義」をすべて2桁から4桁に変更しなければならない。 また、既に蓄積しているデータの年部分を4桁に拡張し書き直さなければならない。

多くの企業で数百万から億を超えるステップ数のアプリケーション・プログラムを蓄積している。 それをすべて調べて、プログラムとデータを手直しすると大変な期間と工数が掛かる。
困ったことに、それだけの費用を掛けても、いまより経営に貢献する要素は何もない。 したがって、どうせ費用を掛けるなら、業務改革も合わせて実施するほうがよいと、誰しも考えるであろう。
もしも、ERPパッケージ導入で2000年問題が解決できるだけでなく、経営にも貢献できるなら、こんなうまい話はない。 ところが要注意である。
現時点ではまだ2000年問題に対応していないパッケージがある。 また、現有システムにはパッケージではカバーできない部分がある。
外側のプログラムに関しては、当然のことであるが、パッケージは面倒を見ない。 もちろん外側のデータもユーザの責任で作り直さなければならない。
困ったことに、パッケージの機能範囲や取り扱うデータ・モデルがユーザ企業に十分に提示されないケースがある。 そうなると、現有システムのどの部分について2000年問題のために改造し、どの部分はパッケージに任せるか、範囲が分からなくなる。
パッケージがよく売れているという理由でユーザがうっかりしていると、思わぬところで2000年問題に足を取られる恐れがある。 ソフトウェア保守の負担はパッケージだけでは解消できないリエンジニアリングと2000年問題の陰に隠れているが、もう一つユーザ企業がERPパッケージに関心を持つ重大な理由がある。
たび重なる変更・拡張によって現有情報システムの構造が悪くなり、これ以上の変更や拡張が困難になっている。 変更要求に対して数カ月待って欲しいとか、検討したあげく「できません」と答えることも珍しくない。

さらに、情報システムの保守要員が次第に増加し、人件費の負担が大きくなり、経営的な問題になっている。 多くの企業で保守要員の比率が50%を超えており、甚だしい企業ではSE(システム・エンジニア)、プログラマの80%強が現有システムの保守に携わっている。
ERPパッケージ導入業者の中には「パッケージの変更拡張はベンダー(パッケージ業者)がやります外側部分は我が社に任せてください」と、情報システム部門のアウトソーシングを提案する企業がある。 この話は、金食い虫の情報システム部門を抱えた経営者には大変魅力的である。
しかし、その話は滅多に成功しない。 パッケージ業者がパッケージを変更・拡張するのは有力な顧客からの要請に対応するためであって、個々のユーザ企業の業務改革のペースに合わせることは不可能である。
また、パッケージの外側の現有アプリケーションに関しては誰も変更・拡張を担当してくれない。 導入業者に任せると、情報システム部門員を抱え込んでいるときと事情はほとんど変わらない。
一プログラムの変更・拡張にはそれを組んだ人(すなわち、現在の情報システム部門員)が担当するのが最も効率的である。 したがって、その部分に関しては生産性の向上を期待できないし、変更実施のタイミングになると悪化することが多い。
手間暇が掛かるパッケージ導入パッケージを買ってもすぐには使えないビジネス用のソフトウェアを衣服に例えると、パッケージは既製服かイージーオーダーに相当する。 機能範囲の小さなものでない限り、パッケージがそのままユーザ企業に適合するケースはほとんどない。
統合業務パッケージのように大きな機能をいくつも持ち、しかも全体を横断的に統合するソフトウェア・システムであれば、ユーザ企業に合わない部分が至る所に出てくる。 パッケージをユーザ企業のビジネスの特徴に合わせる「力スタマイジング」あるいは「チューニング」と呼ばれる作業が必須である。
例えば、主要なデータ項目をパッケージの側で決めているが、ビジネスの現場で必須のデータ項目を追加できなければ、働く人達は困ってしまう。 帳票とかインプット画面の違いなど、表面的なことだけでなく、内部の機能も違っていることが多い。
融通がきかない窮屈な既製服は企業の行動を束縛するこの問題を解決するために、「力スタマイジング」の方法と道具を、現在の統合業務パッケージは備えている。 ただし、力スタマイジングの方法はパッケージの作り方によってかなり違っている。

一つは、「パラメータ設定」による力スタマイジングである。 これは多様な機能を備えたパッケージがあり、使い手がその中から欲しい機能を選ぶために、パラメータを設定するものである。

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